「タマランカーを釣りたいヘタレジジイの釣行記にもなっていないブログ」とタイトル変更したブログ

時間の都合をつけて歯医者に行ってきました。
やっと普段通りにモノが噛めるようになりました。
都心にある歯医者なのでブラブラ散歩がてら帰ってきました。
その途中、あることがキッカケで思いだしたことが……。
実は、ココロのどこかにひっかかっていたことでもあります。

２００６年７月のハナシです。
当時、別のブログに書いた内容ですが掲載します。
万一、このハナシに出てくる「少年」のことを知っている人がいたら
教えてほしいな、と思いながら。

以下、2006年7月の二子玉川でのオハナシです。


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帰宅して仕事の整理もそこそこに、多摩川へ深夜のナマズ釣り。
相方は、いつものBさん。送迎してもらっちゃってま～す。
場所はGW前まで８０センチの大物を連発打ち止めした
二子玉川です。夜はイチャイチャのカップル銀座。
「おまいら、後ろからドついて川に落としたろか！」
と、釣り人から迷惑がられる存在。逆もまた真なり。
B氏が早々に６０クラスをGET。通いつめてるだけのこたぁあります。

そのナマズをリリースする作業中、背後に人の気配。
な、なにものぞ！　ナマズ剥ぎグループの一味か？
よく見ると坊主頭でヨレヨレの半袖Tシャツに半パンのガキんちょ。

「その魚は何ですか？」
「ナマズだよ」
冗談で「持っていくか？　食うか？」
と聞いたら「何か魚を入れる袋、ありますか？」だって。
こいつ、マジで食う気？　

「ナマズはウナギよりうまいんだってさ」
「そうなんですか？」とガキ、喜ぶ。
渡したビニール袋にでっかいナマズを入れて満面の笑み。

「お家で食うの？　家はどこ？」
「あっちです（と、川の中州を指差す）」
「は？　川ん中だよ。どこに家あんの？」
「もう少し上の川原です」

足元を見ると、彼は裸足だった。


少年の名前は通称「ジェロニモ３世」。一緒に住んでるホームレスに命名された。
本名より、ジェロニモ３世のほうが気に入っている。
まだ13歳か１４歳。自分でもよく分からないらしい。
２年前に家出して鶴見川から今年、二子玉へ移動してきた。
ナマズは食料として「食べる」と言う。
とても人懐こくて、敬語を使う。
夜は人が川原で騒いで煩いから、昼間に寝る。
夜は一日１０キロは歩く。
それも裸足で。彼は履く靴がない。
腰に時計を兼ねた万歩計。
栄養不足のせいか、小学生にしか見えない体。


生まれは横浜。
２年前に３０万円持って家を出た。
母親とケンカして「出て行け！」と言われて追い出された。
30万円は父親の遺産。
1000万円と少しあった遺産のうち３０万円だけもらった。
それをセブン銀行に預金。引き出しに手数料がかからないから。

一ヶ月1050円が生活費らしい。
丸一日食わないことがある。
一週間食わないこともある。
たまに腹が減って「頭がくらくらする」ことがある。
そういうときは川の中の杭が人に見えるらしい。
でも食うものはない。
だから平気。
「オレも晩飯食ってないよ」とジェロニモに言うと
「ははは。一日３回食べるからお腹空くんだよ」と。

ビニールに入れた「食料」のナマズが死んでいないか気になる。
「どうせ食うときは死んでるんだから、いいだろ」
「でもまだ生きてるから、かわいそうだよ。死んだら食べる」
ジェロニモはナマズの食い方を知らない。
一緒に暮らすオジサンのためにシケモクを拾うことがある。
自分もシケモクを吸ったことがある。

「毎日退屈ですよ。でも楽しいこともある」
それは一年で一回だけ。
大晦日にマクドナルドのハンバーガーを買って食べること。
贅沢だから、一年に一回だけでいい。
大晦日のマックはたくさん人がいるから恥ずかしい。
必ず「お持ち帰りで」と言う。

風邪もひかない。保険証もお金もないから病院にいけないし。
でも、携帯電話を持っている。
「止められないのは母親がお金を払っているからだと思う」
でも、以前に横浜の家を訪ねたら、そこには別の人が住んでいた。
もう母親がどこにいるかも分からない。連絡もない。

ホームレスのオヤジ達と暮らすジェロニモ３世の担当は、食料の確保。
だから多摩川の魚を獲る。
鯉は大きすぎて力があるから獲れないらしい。
網で小魚を獲る。
その量で分配金が決まるらしい。

お風呂は入れない。
ビニール袋に入れたナマズが気になる。
「なんか生臭いな」と言うと
「僕の臭いかもしれない」と照れくさそうに笑う。

歯も磨かない。歯ブラシがないから。
「健康のために歯だけは磨けよ」と言ったら
歯ブラシは高いから買ってもらえないと言う。
だから「今いちばん欲しい物は歯ブラシです」と答えた。

友達もいない。
でも「こうやって面白い釣りのオジサンが来るから」と笑う。


今晩はとても切なかった。釣りには集中できなかった。
「もう帰るからな、元気でな」
「今週の土曜日、釣りにきませんか？」
「週末は人が多いから行かないんだ」
「人が来る前の明け方に僕は魚を獲るんです。来ませんか？」
「いや、行かないよ」
「じゃ、日曜は？」
「日曜も行かない」
「……」
「じゃ、僕の携帯電話の番号教えます、メモありますか？」
「いや、メモは持ってないんだ」

ジェロニモ３世は、大きなナマズを入れたビニール袋をひきずるように持って歩き出した。
足が痛くなるからか、小石がある砂利道を避けながら。
あまりにも小さな後姿。
姿が見えなくなるまで見送れなかった。

「また今日会った時間に来るから、探しに来いよ、平日にな」

ジェロニモ３世は答えなかった。
ナマズが生きてるいるかどうかのほうが重要だったのかもしれない。
誰かが上手にナマズをさばいて、ジェロニモに食わせてほしいと思った。
まずくてもいいから、ジェロニモの栄養になったらいいと思う。

まだきっと、ジェロニモ３世は多摩川を歩いてるはずだ。
腹一杯になって、真昼間にいい夢をみてほしいぞ。
ナマズが旨かったら、頑張ってまた釣ってやる。

今度会うまで元気でいろよな。
カッコいい名前だよ、ジェロニモ３世。

（終わり）

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実は、この後、彼を探したことがありました。
当然、逢うことはできませんでした。

でも、ある晩に川を渡った中州の砂地に
小さな裸足の足跡が点々とついているのを発見しました。
跡をたどると、それは川の中に続いていて
それ以上の捜索はできませんでした。


今では二子玉川の様相も一変してしまったし
彼もどこで生活しているのか想像がつきません。
普通の生活に戻ることができて
学校にも通っていてくれたらいいなと思います。

できたら、もう一度逢いたいものです。